絶滅種


 尾長鶏並に諸鶏の記、家禽図鑑に記録された鶏種名の中に現在のところ存在しない鶏を絶滅種と呼ぶこととする。

 

 ここに記することは長年の研究と実地検証により得た知見を識すものである。


 

 家禽図鑑は高知県原産鶏にとっては、大正期から昭和初期の状況を識る貴重な内容となっている。

 

  長尾鶏

  東天紅

  地鶏

  軍鶏

  蓑曳矮鶏

  尾丸矮鶏(絶種)

  鶉矮鶏

  小軍鶏

  土佐九斤

  胴切九斤(絶種)

  瑠璃チャボ(絶種)

 


 

家禽審査標準 早乙女勇五郎 編 大日本家禽会 大正11年(1922)

 

 鶉尾チャボ

  雌雄の形状

 大さ中等

 一枚冠にして稍々小、五歯に分裂す

肉髯及び耳朶

  肉髯は大さ中等にして円く 耳朶は小

 短く太く 豊富にして頸羽は能く肩に被る

 円く充実す

腹部及び軟羽

  腹部は充実し軟羽短し

 大さ中等にして能く褶み程好く位置す

 短くして根部能く開張し腹部に向て曲生し内方に湾曲す

脚及び趾

  腿は長さ中等 脛は長さ中等にして稍太く 趾は真直にして開張す

 

 雌雄の色沢

パートリッヂ・コーチンに相似たるを以て之を略す

 

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 鶉尾チャボ鶉矮鶏とは別形態である。

  尾長鶏並びに諸鶏の記(五十嵐正龍 大正12年)に云う、鶉尾鶏のことであろうか。

  


 

尾長鶏並に諸鶏の記(五十嵐文書)五十嵐正龍 記 大正12年(1923)

 

 同書には、鹿敷統一名鶉ちゃぼと同様に次の説明が記載されている。

 

 鶉尾鶏

 鶉尾鶏身体矮小にして褐色なり 其尾長からずして

丸く巻き込み甚だ上品にて らしきものなり性温順なり

此種類は前年県外にて流行せし後 多く売り出して今全

絶へたる様子なり いとおしき事なり

 

 丸尾鶏 

 丸尾鶏右に記したる鶉尾鶏によく似たものなり 鶉尾よりは

品位劣れり 全く絶へたる様子なり

 

 鶉尾の尾曳鶏

 鶉尾の尾曳鶏身体矮小にして褐色なり 尾蓑長く地に

たれて見事なり 今各所に飼育せり

 

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 鶉尾鶏については、正体は不明である。

 

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 丸尾鶏は丸尾鶉ちゃぼ、丸尾チャボ、尾丸、尾丸矮鶏と称された鶏種にて、鹿敷統に対して原統といわれた鶏種と考えられる。

 

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 鶉尾の尾曳鶏蓑曳矮鶏と考えられる。

 


 

い志か鶏

 

 尾長鶏並に諸鶏の記(五十嵐文書)五十嵐正龍 記  大正12年

                         

 大鶤身体長大にして黒色褐色其他の数色あり性勇猛にてたゝかひを好む

古来流行に消長あり 近年又流行せり

 

小鶤大小の種類あり 性大志やもと同しく甚だ元気なり

黒褐色混合黒色白色其他の数色あり 足の前面に鱗の四枚並びたるも

のを四枚鱗と称へて之をよしとす 又海老尾と称へて短小なる尾を斜に垂らして海老の尾の形ちに似たるものをよしとす

 

 又大志やも並に小志やも共丸羽と称する一種あり

毛の先き丸みてめん鶏のみの毛の如し 依て丸羽と名づく

づれもよく訓れて■らしきものなり

 

小志やもには近年よきもの減少せり

 

い志か鶏 志やもの類にして大志やも小志やもとの中間のふとさなり  

 

志やもよりは品位劣れり 今は全く絶へたる様子なり

 



 

瑠璃チャボ 

 

  チャボ 深川景義 昭和3年 (1928) 西ケ原刊行会

 

 土佐の原産で黒色で青味を帯びた光沢を有し、

昔は一升枡に三羽入つたといふ最小の珍種であるが、

現在は全く滅亡して居る。

 

瑠璃チャボ

 

  家禽図鑑 三井高遂・衣川義雄 著  昭和8年(1933)

 

 二、黒

  羽毛の光輝に・・・・・・ある。尚るりと称する一種の黒チャボを

嘗て土佐の室戸崎付近に於て見たるが、今は絶種した。羽色は瑠璃色の

黒色、冠は小なる単冠にして赤色である。

 



 

蝦尾矮鶏

 

  家禽図鑑 三井高遂・衣川義雄 著 昭和8年発行

 

土佐地鶏 Tosa-Jitori

 

 最も原型的なるものにして小型であるが、現在に於いては体型に種々の変化を示し、最も原始的なるものは容易に発見し得ざる状態にある。

その羽色多くは褐色にして原鶏に似る。

耳朶の白色なることも印度支那の南部に産するガルス、ガルスに酷似している。

 

体型 原始的なるものは非常に減少したが、観賞用種として種々改良せし結果、蓑曳矮鶏の尾の形に似て優美なる尾形を有するものもある。土佐産の鶉矮鶏は明らかに地鶏よりの遇出にして、両者の中間型即ち鶉矮鶏に似て尾羽が少しく伸び出でて且つ下方に向けるものがあり、之を蝦尾矮鶏と云ふ。

 

羽色 褐色最も多けれ共、現在に於ては観賞用として種々なる羽色を生じた、即ち褐色・白藤・白・黒・碁石・桜碁石・源平である。此等の中、白藤は長尾鶏の白藤と同一にして、他は矮鶏の羽色と同様である。

 

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 鶉矮鶏に似て尾羽が少しく伸び出でて且つ下方に向けるものがあり、之を蝦尾矮鶏と云ふ。

 


 

蝦尾矮鶏 (※家禽図鑑)

 

 1.鶉矮鶏に似て

 2.尾羽が少しく伸び出でて、且つ下方に向けるもの

 

 蝦尾矮鶏は鶉矮鶏の劣化したもので、尾骨は有しないが本尾の一部が出現したものである。現在もこの様な鶏は生まれてくる。

これは鶉矮鶏の退化現象というべきことで淘汰の対象となる鶏である。

 

現在も正常鶏に尾の不整形な鶏が生まれたとき、この鶏をおかぶ(尾株)と呼ぶ。 

 


 

中央家禽協会編集 家禽標準

 中央家禽協会 大正12年1月12日発行

 

 尾丸鶉矮鶏 雄

  耳朶は白色

  脚はチャボのような短脚ではない

  鞍羽は綿毛が見られない

  尾は拝み尾である


 

尾丸チャボ


  チャボ  深川景義 昭和3年 (1928) 西ケ原刊行会

 

 雄の形状

一、頭、小。

二、嘴、細長。

三、眼、大にして張る。

四、冠、単冠にして整然たる五歯。

五、肉髯及耳朶 肉髯は大さ中庸にして円く、耳朶は大にして楕円形。

六、頸 太く、短く、程よく湾曲し、頸羽夥多にして長く、よく背を覆

  ふ。

七、背 稍長く、広し、鞍羽、簑羽は夥多にして長し。

八、胸 円くして突出す。

九、翼 大にして長し。

一〇、尾 大にしてよく開張し、主尾羽は四十五度の角度をなし、謡羽

  及覆尾羽は長く能く湾曲し、主尾羽を蔽ひ側面より見れば円形を呈

  する。

一一、体躯及軟羽 体躯は稍長く充実し、軟羽は稍短し。

一二、脚及趾 腿は小にして長さ中庸、脛は寧ろ細くして短く、趾は真

  直に開張す。

 

 雌の形状

一、頭、嘴、眼は雄に同じ。

二、冠、小にして五歯。

三、肉髯 は小にして円く、耳朶は大にして楕円形。

四、頸 能く湾曲し、大さ中庸にして頸羽夥多。

五、背 寧ろ長く、尾根に向ひ凹斜向上す、鞍羽夥多なり。

六、胸 円くして突出す。 

七、翼 大にして長し。

八、尾 長さ適度にして能く開張し、覆尾羽は長く能く湾曲し、主尾羽

  を全く蔽ふ、側面より見れば球形を呈す

九、体躯及軟羽 体躯は稍長く充実し、軟羽は寧ろ短かし。

一〇、脚及趾 雄に同じ。

 

 標 準 体 重

雄   二 百 匁 (750g)   雌   百七十匁 (637g)

若雄  百七十匁 (637g)  若雌  百三十匁 (487g)

 

 雄の色沢

一、頭 濃赤栗色。

二、嘴 黄色若くは黄色に角色の條線あり。

三、眼 赤色。

四、顔面、冠、肉髯 は鮮赤色。耳朶は白色

五、頸 頸羽は濃赤栗色にして各羽の中央に黒色の縦斑あり、他は黒色。

六、背 濃赤栗色、鞍羽は頸羽に同じ、岬羽は黒色。 

七、胸 緑黒色。

八、翼 主翼羽及副翼羽は黒色にして下端に濃褐色の縁あり、覆翼羽は

  緑黒色にして褶むときは翼を横断して羽面に劃然たる翼閂を現す。

  翼肩は濃赤栗色。

九、尾 主尾羽は黒、謡羽及覆尾羽は緑黒色。

一〇、体躯及軟羽 黒色。

一一、脚及趾 腿は黒色。脛及趾は黄色若くは帯黒黄色。

 

 雌の色沢

一、頭 赤色。

二、嘴 雄に同じ。

三、顔面、冠、肉髯、耳朶 雄に同じ。

四、頸 頸羽は赤黄色にして各羽の中央に緑黒色の縦斑あり、他は胸に

  同じ。

五、背 暗赤褐色にして各羽に稍不鮮明なる二條の黒色條斑あり、羽軸

  は淡し。 

六、胸 背に同じ。

七、翼 主翼羽は黒色、副翼羽は黒褐色にして下端に褐色の細條斑あり、

  他は暗赤色にして各羽に稍不鮮明なる二條の黒色條斑あり、羽軸淡

  し。

八、尾 背に同じ。

九、体躯は胸に同じ、軟羽は暗褐色。

一〇、脚及趾 腿は暗赤色にして、脛及趾は黄色若くは帯黒黄色。

 



 

 尾丸矮鶏

 

  家禽図鑑 三井高遂・衣川義雄 共著  昭和8年発行

 

  来  歴    

 本種は高知県土佐郡小高坂村字新屋敷に於て作出せらしものにして、慶応年間土佐国中到る処鶉型なる短尾の矮鶏の飼養が流行し、之れをウヅラ尾と称せしが、同地に軽格の士族原甚作氏方に於ても簑曳及び鹿敷統など数種の矮鶏を飼養し、且つ各種矮鶏の交雑を行つたのであつた。

 

 然るに明治三-四年の頃に至り同氏は同郡潮江村祠師某の家に飼養せる一種の矮鶏(恐らく小型地鶏)の分与を受け、之をオヅシ統と称したるが、その羽色他の矮鶏に比して頗る濃暗にして、雌は濃褐色に黒斑を有し、雄は胸腹羽は黒色、頸羽・簑羽等は赤褐色を呈した。

 

オヅシ統の原種は之を詳かにするを得ざる画、原氏は特に愛育し、初めは之れに他種の交配を試みたることもあるも、後之れを止め、且つ他の矮鶏を飼養することを廃して専らこのオヅシ矮鶏の飼養に努め、年々小型なるものを選んで系伝し、後年に至りては遂に一升枡の中に、番を入れ得る様なものを作出するに至つた。

 

その双翼は地に曳きて腹前に僅かに趾端を現はし、冠は体に比して稍大きく、尾は丸く曲りて極めて小にして恰かも鶉の如く、羽色は愈濃暗を加へ、特に雌の頸・胸・腹部に於ける黒斑は整然著明となり、その色彩は恰かも鷦鷯(ミソサザイ)に似たるを以て之を鷦鷯毛(さんざいげ)と称し、その名遠近に宣伝せらるるに至り、遂に原統鶉尾の名称を成すに至った。

 

 後年甚作氏居を小高坂村北町に移し、老来この飼養を怠らず、その死するに臨み、この鶏種の維持を其の子孤城氏に遺言し、孤城氏之を承け、亦その飼養蕃殖に努めたるも、世態の変遷により一般に洋種鶏の飼養盛なるに至りて、本種の飼育大いに衰へ、原氏方に於ても昔日の如く本種の飼育系伝を全ふすることを得ずして、漸々その優質を失ふに至り、孤城氏死して後は本種は遂にその家にも失はれ、他にも亦之を飼養するもの極めて少なく、今や殆ど絶種せんとしつゝある状態である。

 

  外貌・性能

 

 雄

頭小にして濃赤栗色。

嘴は細長にして黄色若くは黄色に角色の條線がある。

眼は大にして赤色。

冠は単冠にして小、五歯に分裂する。

肉髯大きさ中庸にして円く、

耳朶は大にして楕円形、白色を呈する。

耳朶を除く頭部の露出部は総て鮮赤色。

頸は太く短かく、頸羽は夥多にして濃赤栗色、各羽の中央に黒色縦斑あり、其の他の頸部の羽毛は黒色。

背は稍長く広く濃赤栗色、岬羽は黒色、鞍羽・簑羽は夥多にして長く濃赤栗色である。

胸は円く突出し緑黒色。

翼は大にして長く、主翼羽及び副翼羽は黒色にして下端に濃褐色の縁あり、覆翼羽は緑黒色にして、褶む時は翼を横断して羽面に劃然たる翼閂を現はす。

翼肩は濃赤色。

尾は大にしてよく開帳し四十五度の角度をなし、謡羽及び覆尾羽は長くよく湾曲して主尾羽を覆ひ側面より見れば円形を呈する。

主尾羽は黒色謡羽及び覆尾羽は緑黒色。

体躯は稍長く充実し、軟羽は稍短かく何れも黒色。

腿は小さく長さ中庸にして黒色。

脛は寧ろ細くして短かく、黄色若くは帯黒黄色を呈する。

 

 雌

頭は赤色。

頸は赤黄色にして各羽の中央に緑黒色の縦斑あり。

頸前部は胸に同じ。

背は暗赤褐色にして各羽に稍不鮮明なる二條の黒色條斑ありて羽軸は淡く、寧ろ長く、尾根に向ひ凹斜向上し、鞍羽は夥多である。

胸は背に同じ。

主翼羽は黒褐色、下端に褐色の細條斑あり、他は暗赤色にして各羽に稍不鮮明なる二條の黒色條斑あり羽軸は淡色。

尾は長さ適度してよく開帳し、覆尾羽は長く、よく湾曲し、主尾羽を全く覆ひ側面より見れば球形をなして、背と同色。

体躯は稍長く充実し、その色は胸に同じく、軟羽短かく暗褐色、腿は小にして長さ中庸、暗赤色、脛は細く短かく、黄色若くは帯黒色を呈する。

 

標準体重は雄二〇〇匁、雌一七〇匁、若雄一七〇匁、若雌一三〇匁。

 

尚雌の胸に條斑を現はさゞるものは不可とする。

性能はチャボに同じ。