農業全書

 国立国会図書館 近代デジタルライブラリー  古典籍資料


 

農業全書 巻十 生類養法   

 宮崎安貞

 元禄10年元板

 天明 7年再板

 文化12年

 

  2/30頁 巻十目録

  5/30頁 鶏

  6/30頁 〃

 

農業全書巻十目録 ニ十五種

  鶏 第ニ

鶏 

 には鳥は人家に必なくて叶はぬ物なり 鶏犬の二色

は田舎にことに畜置くべし 是大小色々あり 唐丸とて

甚大きあり 近来しやむと云て 一種是又大

なり 是皆 体おもくして 高き所に上り得す 狐狸

にそこなはるるゆへ 雛も生立がたし時を作る事も

正しからず 雌中鶏の毛のあかき脚の黄ろのをか

ふべし 又雌鳥はからさのみふとからず 毛浅くて

脚細く短きが 卵を多くうみて雛をよく生立る

物なり また雄鳥は声の小きは 子少なし 黒き鶏

頭の白き 六指のもの 四距のもの 死して足の伸ざる

もの 皆人を害すとあり 料理をするに心を用ゆべし

又五歳以下の小児鶏を食すれば あしき

虫を生ずると見えたり 多く畜わんとする者は

広き園の中に きびしく かきをし廻し 狐狸

犬猫の入ざる様に 堅く作り 戸口を小さくしたる

小屋を作り 其中に塒を数多く作りて 高下それぞ

れくの心に叶べし 尤もわらあくたを多く入置て

巣に作らすべし さてその一方に 粟黍稗或粥

に煮てちらし置 草を多くおおへば やがて虫多   

 

 

くよき出るを 餌とすべし 是時分によりて 三日

も過ぎずして虫となる 其虫食尽すべき時分に

又一方かくのごとく 年中絶ず 此餌にて養へば 

鶏肥え卵を多くうむ物なり 園の中を二列に

しきりおくべし 又雑穀の粃 其外人牛馬の喰物

ともならざる物を多く貯へて はみ物常に乏

しからざる様にすべし 卵も雛も 繁昌する事限

なし 甚利を得る物なれども 屋敷の広き余地なく

ては 多く畜事はなり難し 凡そ雄鳥二羽雌鳥四

羽五羽程畜を中分とすべし 春夏かいよりて

廿日程の間は ひな巣を出でざる物なり 飯をかはかして 

入れ水をも入置て飼立べし 甚多く畜立るは 

人ばかりにては 夜昼共に守る事なり難く 狐狸

のふせぎならざる故 能よき犬を畜置て ならはし 

守らすべし 

但しかようにはいえども 農人の家に鶏を多く飼へば 

穀物を費やし妨げ多し つねのもの是をわざとしてもすぐ

しがたし しかれば多くかふ事は其人の才覚によるべし